田染幸雄のエッセイ 3
田染幸雄のエッセイ 3
「 田染幸雄のエッセイ 2 」に続き 今回は
「 甲州・信州の旅 2 」を紹介いたします。 (1987年発行「田染幸雄画集」から)
甲州・信州の旅 (2)
八ヶ岳の東側、小淵沢から小諸にかけての小海線沿線も
この2,3年はたびたび訪れている。
高原列車の中でも最高地点駅として知られる野辺山の次が信濃川上である。
川上郷は、甲武信岳山腹から発する千曲川沿いの村で
信濃川上から梓山行きバスで逆上れる。
群馬・埼玉・山梨と境を接するこの村の突当りが三国山ということである。
奥秩父への登山口として知られ、柴犬の故郷として有名な所でもある。
バスの終着・梓山から歩くと、千曲川の源流へ遡ることが出来る。
川上の駅から近い千曲川沿いに大きな縄文遺跡があり、
竪穴式住居跡と数万点の土器・石器が発掘されている。
考古学を研究したことはないが、
渓流にインスピレーションを与えてくれているような気がしてならなかった。
八ヶ岳の遠望、茅ヶ岳、駒ケ岳はこの2,3年連作してきている。
いわゆる山を描いたことはあまりなかったが、
ここへきて、甲府、韮崎、茅野を基地にして、
57年(1982年)の個展の幹になるものを描いてきた。
境・小淵沢・長坂・武川からの駒ケ岳、
韮崎からの茅ヶ岳、長坂・大泉からの八ヶ岳である 。
〔注〕1982年6月「田染幸雄油絵展」が日本橋三越本店で開催されています
昨年(1986年)10月以降は、冬の寒い時に取材している。
冠雪と晴れた日を狙うと、どうしてもこの時期の取材になってしまう。
形の見えることを前提としているので、寒さは仕方がないのだ。
清里周辺や飯盛山は度々取材した所であるが、
最近は雰囲気が少々・・もちろん私は十分に若いつもりではいますが。
近年の取材では、もちろん遠景の山もであるが、唐松、白樺の林や
高原の畑や牧場が織りなす中景も、気に入っているところである。
塩山からの西沢渓谷や、大菩薩近辺、御代田、
追分からの浅間山も、今後とも取材を続けてみたいところである。
松本から南小谷までの安曇野の雪景も、繰り返されることであろう。
また、白馬大池・南小谷、塩の道と呼ばれた街道で、
吹雪の取材をしたことがあった。
吹き付ける雪が樹々の相を刻々と変える白の世界は
寒さとか厳しさというより、
自然が自然の断面図を見せてくれたようで、
今でも生々しく目に残っている。