田染幸雄のエッセイ 8
田染幸雄のエッセイ 8
今回紹介する田染幸雄のエッセイ「 道 」は、
昭和52年に発行された「 ニッサングラフ 11 」に 掲載されていたものです。
道…
それは私がいままで絵筆に託した探索のテーマで、
これからもこの “ 道 ”をさらに描き続けていきたいと思っている。
四季折々に、日本の風土性を象徴する微妙な自然現象のよろこびを
この道に感じる。
毎月出かけるスケッチ旅行で“ 道 ”への執心は募るばかり。
ときには季節を変えて幾度か同じ道に足を運ぶと
折々の異なった風情で私をひきつけ
道と景色の相互を痛感する。
“ すべての道 は風景に通ずる ”
そこに素晴らしい舗装道路が通じていたにせよ
車同士のせりあいでイライラムードでのドライブであっては
自然を楽しむ心も不条理である。景と情はうつり合う。
正しいマナーをとおしてみる自然のたたずまいは、
求め触れ合う心の融和である。
私が理想としている作品は、道をもって画竜点睛としている。
風景のツマに道を描くのではなく、道の中に風景を添加している。
この秋訪れる大勢のモータリストが
道と風景に寄せている思いにもこんなものがあろう。
しっとりした道を気ままに静かに走る。
そこには、ひっそりと息づいている大自然のパノラマ、
私はいつもそんな道を探し求める。
マスメディアで案内されている観光地は、
都会地さながらの雑踏にまみれ、周辺の美観も損なわれる。
私は職業柄、道を絵で知っているが、
モータリストも、
切っても切れない仲のこの道にもっと深い親しみを持てば、
ただそこを走るだけで心が和み、
周囲の景色も美しく心に映えることだろう。
それは必ず、足元からはじまる。
美とは概念ではなく、求め触れ合う心根だと思う。