田染幸雄のエッセイ 9
田染幸雄のエッセイ 9
ブログ「個展・各種展覧会 6」の中ですでに紹介しているエッセイですが、
1975・1・22~2・1 飯田画廊・第2回個展の際に発行された
小画集の写真をそのまま掲載いたしましたので
読みづらいため、再度紹介することにいたしました。
得るものと失うもの
最近、自然を大事にしよう、という言葉が
いろいろな方面で叫ばれるようになってきた。
その叫び声が大きくなればなるほど、その声がむなしく聞こえるほどに、
現在の自然環境は急激に変貌を遂げている。
海と山の隣接する温暖な瀬戸内海の、恵まれた自然の中で青年時代まで過ごした私は
自然が人間の生活にとっていかに大切であるか、ということを
身に染みて感じている。
自然と共に過ごした青春の記憶が、現在の制作活動の最中に
もろもろの感慨となって現れてくるが、それにつけても、道、雪、海、樹木等が
公害に浸蝕されていく現状には、なんともいいようのない淋しさをおぼえる。
舗装されていない道などをとぼとぼと歩いている時に、
足の裏に受ける大地の土くさい感触、
白一色におおわれた汚れない雪景色、
限りない広がりと、限りない透明感にあふれた海、
季節の移り変わりと共に様々な色に変化する樹木、
そういったものがなぜ失われていかねばならないのであろうか。
そういったものとひきかえに、
人間は何を得ようとしているのであろうか。
得るものははかりしれないかもしれない。しかし失うものもまた、
二度と得ることのできない大切なものであるということは
まちがいのないことである。